-真紅ナ林檎ガ堕チタ夜 僕ハ産マレタ。
其レガ ドンナ二辛イ事カ 未ダ知ラズ二-

喧騒の足下…廃墟の地下に廃墟に生えた1本の木が、誰も気づかず…誰にも見つけ られないまま1つの真紅な実をつけた。
禍々しい程に紅いその林檎は、毎日毎日…聞いていた人々の声を…人々が生活する 音を。
暗い部屋に差す一筋の救いの糸のような光に林檎は憧れを抱き始めた。

-僕モ人間ニナリタイ-

林檎は禁断の扉を開けた。

そこには夥しい数の人間…見た事のない景色…そして、一面に広がる光…。
林檎は期待を胸に未知の世界に足を1歩踏み出した。

しかし、その期待はすぐに打ち砕かれる事になる。
林檎に向けられたのは、自分と違う姿の生物に対する好奇や蔑みの目…囁きのよ うな誹謗中傷…憎悪。

林檎はそれ以上足を進める事を止め、地下へと還って行った。

-フツウッテナニ?僕ハ皆ト違ウノ?-

憧れていた世界は自分を拒んだ。
林檎は苦悩した…何年も何年もたった1人暗い部屋で。
そんな林檎の想いが届いたのか、または唯の偶然か…
或る日、固く閉ざされたはずの扉が開き女が入ってきた。林檎を見ても少しも臆 する事なく、女は言った「毎日が退屈で気が狂いそうだ。」と。
林檎が女の話をただ黙って聞いていた。
皆と同じ服を着て、皆と同じものを食べ、皆と同じように笑う…そんな生活に満 足はしているけど時々無性に生きている感じがしないのだと彼女は言う。

-人間ッテ贅沢ダナ-

しかし、林檎が初めて自分に話しかけてくれた女の為に何かしてあげたいと思った。
林檎はまた明日この部屋に来るように女に告げると、更に地下へと続く階段の下 に消えていった。

次の日…
女が扉を開くと1枚の手紙が机の上に置かれ、机の横のトルソーには新聞紙と ガーゼで出来たドレスが飾られていた。

-君ノ退屈ナ日常ニ少シノ冒険ト夢ヲ From林檎ノ化物ー

女はペンを取り出すと書かれている文字に線を引き、新しい文字を書いた。
”From林檎マン” ←貴方は化物じゃなくて私のヒーローよ! と。

あれからまた長い月日が流れ…
嘘か誠か風に乗って噂が聞こえてきた。
「知ってる?転がる林檎を追いかけて行くと地下の小部屋に着くんだって…その 中は林檎のモンスターが居て夜な夜な服を作ってるらしいよ…」